第四章 真夏の夜の運命
花火が上がる。駿河市上空で待機していた光里はその光の花を間近で眺めていた。他の二人の姉妹は自分の
自分もそうだった。ちぐはぐで、でも愛しくて。別れは身体が二つに裂けてしまうほどに痛切で。
二人がそんなふうにやることができたならいいな、と光里は思った。それならあたしたちは戦える。この街を守るために。この世界を守るために。
大切な人を守るために。
その時、地上から二つの影が上がってきた。二人に向かって光里は声をかけた。
「もー、ふたりとも遅いよ! あと数分もないよ!」
「NDA-DB-3412-Iが早すぎるだけ。蛍は遅れたりしない、完璧だから」
「そうよ、まさかリンカーとうまくいかなかったんじゃないでしょうね。そんなので戦えるのかしら」
「そんなわけないじゃん! あたしは余韻を大事にしてたの――それと、あたしの名前は光里。NDA-DB-3412-S、あなたは?」
「静よ。憎まれ口を叩けるなら大丈夫みたいね、お互い」
光里、静、蛍。三者はめいめいの顔を見ると、頷きあった。そろそろ時間だ。
直後、紫とオレンジの光が明滅する。それは花火とも月明かりともまったく性質の違う光。開きかけたゲート、重力場の渦の光だ。三人はND粒子を操作し、地上からは観測できないよう、隔絶された空間を作り出した。
ゲートは駿河市の空を覆うほどに巨大であり、その周囲にはドラグアロンの先遣個体の姿があった。数は二機。
情報はない。2050年は三人を送り出すために手一杯であり、戦闘記録もない個体の情報収集をすることは難しかった。けれど、わかることがある。それはこの二機さえ倒してしまえば、残ったドラグブライドの力でゲートを閉じることは十分可能だという事実だ。
機械竜が咆哮する。少女たちはめいめい武器を構えた。最初で最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。