4-2 明日の明かり
開戦直後、真っ先に動いたのは光里だった。
「結女の未来を! あたしたちのイマを! あんたたちなんかに、邪魔させてたまるもんか!!」
機先を制すように飛び出し、ゲートの重力場をも利用して急加速する。意図を察した静と蛍がNDエレメントで力場を形成。それをさらに蹴りつけ、半弧を描くようにして、光里はドラグアロンの一機に向かって飛翔する。
光里の右手が変化した大型剣が陽光を浴びたかのように輝く。
「切り開いて、夕陽の剣! 『
危機を察したドラグアロンが回避を試みようとする間もなく、亜光速の剣はその翼を一刀のもとに断ち割った。
返す刀でさらに三度の斬撃を光里は繰り出す。最初の一撃ほどの威力はないものの、それは機動力の大半を失ったドラグアロンにとっては十分な痛打となった。
「光里! どきなさい!」
声の直後、光里はドラグアロンの身体を駆け上がるようにして背後に抜ける。この好機を逃す訳にはいかないと静がライフルのトリガーを引く。
フルオートで発射された徹甲弾の嵐がドラグアロンを襲う。身を捩るようにして一部を避けるものの、静の目はその隙をも逃さない。吸い込まれるようにして頭部を弾丸が貫通し、断末魔を上げる間もなくドラグアロンの一騎が爆散した。
「やるじゃん静! 残りも――」
「ふたりとも。もう一体が動く。油断しないで」
蛍が牽制射で押し留めていた残る一体のドラグアロンが、同胞の死に怒ったかのようにしてまとわりつくミサイルを振り払って動き出す。
NDエレメントが爪部に収束。翼部が躍動する。三人のもとに巨躯の大質量が襲いかかる。
三人は互い違いに逃げることによりなんとかその襲撃を回避するも、フォーメーションを乱されてしまう。ドラグアロンの重装甲を貫徹するには力を一点に収束させることが肝要なのだ。だが、ここでライフルのリロードをしながら静が叫んだ。
「正晴、あなたの想いは受け取ったわ。みんな行って、『
静は閃光弾を射出してドラグアロンの視界を一時的に封じると共に、二人のもとにNDエレメントで作り出した加速場を送った。蛍はそれに乗ることで静と合流しながら加速の乗った射撃をドラグアロンにぶつける。
「静、この力場借りるよっ!」
そして光里は機竜形態へと変化し、ドラグアロンに組み付いた。機竜形態になったドラグブライドは出力、装甲ともに上昇する。足りない速度は静が補ってくれた。いまひとときであればドラグアロンと格闘戦を演じることも可能だ。
ドラグアロンは咆哮をあげる。純粋な出力では勝る相手をねじ伏せられないことに焦れたのか、その背部からミサイルを幾条も発射する。狙いは遠間から射撃で決めるために集中していた蛍だ。
蛍は武装の展開を解き回避に集中するが、追尾性能を持ったミサイルは執拗に追い続ける。静も射撃でミサイルの迎撃を狙うが、いかんせん数が多すぎた。
「逃げなさい、蛍!」
静の悲痛な叫び。ミサイルが爆煙を上げる。風に流された煙が晴れると、しかし蛍は無事だった。光里がドラグアロンを蹴り飛ばし、蛍を庇ったのだ。
「光里。あなたはアイツを抑える役目じゃなかったの。蛍は完璧だから、大丈夫だった」
「にひひ。ごめんごめん、つい、ね」
「……でも、感謝する。ありがとう」
厚い装甲があるとはいえ、光里の機体も大きく損傷していた。蛍はそれから目をそらさない。今度こそと覚悟を決めた目で全身の兵装を再展開する。
危機を感じたのか、ドラグアロンから立ち上るNDエレメントの光が高まる。三人は突撃の前兆を見て取った。静は一人離れ釣りだすように射撃を繰り返すが、ドラグアロンはそれに目もくれず、蛍へと向かって加速する。
だが、今度は蛍も回避をしない。蛍の戦局眼はこの攻撃の直後こそが一番の隙を生むと告げていた。そして今は受け止めてくれる仲間がいる。
直撃、轟音。そして拮抗。光里の装甲は剥がれ落ちかけているが、ドラグアロン最大の攻撃を確かに受け止めていた。運動エネルギーを発散させたドラグブライドに、エネルギー充填を終えた蛍のキャノン砲が炸裂する。
「今! 走り抜けて! 『
多大な熱量で溶け落ちたドラグアロンの装甲を的確に撃ち抜くように、蛍は戦術指揮を即座に飛ばす。光里も機人へと戻り、即座に三人による立体機動攻撃が行われる。
リアルタイムで状況を更新し続ける蛍の眼があってこその技だった。三人が交差するように残弾を打ち尽くしたとき、ドラグアロンの胸部には夜空の見える大穴が開いていた。
ドラグアロンが爆発四散すると、強い引力を放っていたゲートもまた、ゆっくりと閉じていく。
ゲートの向こうの空は、白み始めていた。
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