5-2 遺さざるもの
正晴は薄明の空をみあげていた。花火と……それと、どこか遠くで光がいくつかきらめくのをずっと屋上で眺めていた。
もう、このままここで一晩を明かそうかと思った、そんな頃。戦闘を終えた静が、最後の言葉を伝えに戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり。随分と遅かったじゃないか」
「ええ。でも安心して正晴。あなた達の世界はずっと続くわ。いつまでも。いつまでも」
「やりきったんだな、静。さすが、俺の幼馴染だよ……期待を裏切らない」
静は笑った。もうなにも思い残すことはないというように。
「世界の危機が去ったんだから幸せを噛み締めて、なんて事は言わない。ただ、せいいっぱい生きて。それがワタシの願い。そして想い」
きっと静はもう長くないのだろう。けれど、あえて答えを聞きたかった。正晴は問う。
「君はどうするんだ? これから」
「どうしようかな?」
「はぐらかさないでくれよ、お前は――」
その瞬間、静の最後の思考が流れ込んでくる。
これ以上、正晴の事を縛る事はできない。ワタシがいた記憶は彼の将来にないほうがいい。正晴の記憶から自分を消して、そして……
「さようなら」
静の体は静かに夜空に透けていく。