5-3 どこまでも、どこまでも

  翌朝、まだ日も昇りきらないうちに豪樹は頭を蹴り飛ばされて目が覚めた。

「起きろ、豪樹。ミニ四駆勝負するぞ」
「いててっ! 蛍じゃねーかよ。こんな夜に走るのかよ!?」
「そう。今じゃないと駄目なんだ。ほら、いつもの練習場だ。急げ」
「お、おう。わかったよいくよいくよ」

 駆け出していく蛍の後ろを号機はあくびをしながら追いかける。蛍がミニ四駆に本気になってくれるのは嬉しいことだ。気合を入れるために豪樹は自分の頬を叩いた。
 練習場で待っていた蛍は、手のひらの上にミニ四駆を載せていた。ガトリングもついていない、特殊な形状でもない。一般的なやつだ。

「実は、密かに機体を作っていた。インチキはしていない。ちゃんと手で作った。これで勝負。いいか?」

 豪樹の眼にはたしかにわかった。シャーシを削った跡、走り込ませたヘタリ具合。蛍がこのために調整を重ねていたことが。

「お、ちゃんとした車体作れるんじゃねーかよ!やったな蛍!」
「蛍は賢いからなんでもできる。エライだろう。」

 あんなものを見てしまえば、眠気も一瞬で吹き飛ばされる。やる気百倍だ。

「じゃあ勝負だ」
「手加減はしねーぞ。いっけーーー! ブレイブハァァァァァトーーーッ!」

 言葉通り手加減なしで豪樹は駆け出していく。序盤は豪樹の有利で角を曲がる。けれど、蛍の機体も確かに後ろについてきている音がする。モーターが回りタイヤが地を噛む音が。

「やはりおまえはすごいな!!お前のこと好きだったよ!!」

 蛍の声は弾んでいて、嬉しそうだ。豪樹も嬉しかった。レースを知らなかった少女が、ここまで育つなんて。

「オマエの本気を初めてみたぜ。これからもずっと一緒だぜ、蛍! あ、あれ?」

 逃げ切ってゴールを切った愛機を見送り、二着の蛍を褒め称えようと豪樹が頭を上げた時、すでにそこには機体だけが残されており。蛍の機体もまた、ゴールを切ってもその先の二週目にまで、走り抜けていく。

「ほーたーるーーーー!!!」

 レース場にはただ一人。叫ぶ豪樹と、並走する二台のミニ四駆が朝日を浴びて照らされていた。


Only One Summer's End.