星を見る

 星を見るように敵を撃つ。星をなぞるように敵を斬る。

 スター・スターシアの意識は戦場で急浮上した。過熱したミストエンジンの熱が彼の体温となり、操縦棺の中でどろりと首をもたげた。
 壊れかけのレーダーが一度警告音を上げたきり沈黙する。FCSに映るのは数十……いや百機以上の敵性反応。無線からは悲痛な報告がいくつも流れてくる。
 シュヴァルベ・ドライの侵攻。テイマーズケイジの崩壊。起動しないグレムリン。……だが、錆まみれになったスターシアの身体は奇妙なことにまだ動くようだった。

 誰かが修繕してくれたのだろうか。戦場において事切れたのを最後に、スターシアの記憶は途切れていた。それでも、戦い方は覚えている。ウェポンラックからパンツァー・クリンゲを引き抜く。
 剣が一本あれば戦える。戦わなければならない。スター・スターシアが目覚めさせられるとすればそれは戦いが起きたからであり、戦うべきときだからだ。傭兵に身をやつしたときから、その論理だけはいつも明確だった。

 管制系に電源を通し、エンジンに圧力をかける。無限軌道が数度空転した後、ガッチリと地面を噛みしめる。スターシアは眠っていたハンガーを飛び出し、サイレンの鳴り響くタワーの中腹に姿を表した。
 防衛施設は既に敵の猛火のさなかにあり、沈黙しているものも多い。だが、その死骸を一つ踏み越えるたび、崩れ落ちたシェルターの脇を通るたび、機体の中の圧力は高まり、吐き出されるときをいまかいまかと待ちわびている。
 シュヴァルベ・ドライの駆動音が近づいてくる。今にも敵機を視界に捉えんとしたとき、通信機の向こうが湧きはじめる。援軍。増援。タワー各地のグレムリンたちが徐々に再起動を始めており、百を越す敵機に噛みつき始めていると。
 スターシアは叫んだ。反抗の狼煙の一つとならんとして。数多の傭兵の一人として。名もなき星屑となるものとして。

「こちら傭兵、スター・スターシア! 本機はこれより交戦を開始エンゲージする! 繰り返す! こちら、傭兵、スター・スターシア! 本機はこれより交戦を開始する!」

 ミストエンジンの加圧に呼応するようにして胸が高鳴り始めていた。この時を待っていたのかも知れない、とスターシアは思った。
 希望も、未来もない。過去の傷跡に追い立てられるような戦い。砂漠に落とした宝石を探すような、星空を見上げるような、そんな戦いを。
 この時を。待っていた。