3-2 Run,Run,Run

「いっけー! マックスブレイカーゼットツー!!」

 豪樹は今日も走っていた。ミニ四駆と共に。けれど、なんだか感覚が違う。違和感に振り向くと、いつもは並走してくるはずの蛍がぼうっと立ち呆けていた。

「……」
「ん、どうした? 蛍、元気ないなー」

 思わず豪樹は愛機を止めて蛍に話しかけた。彼女が共に走ってくれないとこの調整は意味がない。今や計測の殆どを彼女に任せているのだから。

「……時間が、あと少し。あまり話していなかったが、我々が戦う時間がもうすぐくるんだ豪樹」
「え、時間? 大会まではもう少し時間あるぞ? チューニングがんばろーぜ!」
「違うんだ! 違うんだ……」
「な、なんだ、これは!? 頭の中がぐるぐるぐるぐるーーーー」

 以前にも一度見せられていた映像だった。豪樹はそれをレースで負けると起こってしまう災厄だと思っていたが、それは違ったのだろうか。

「本当は、すぐにでも。この危機を伝えるべきだった。蛍は失敗した」
「危機? 大会で負けると世界はこんなんなっちゃうのか!? それは困るぞ!」
「あまりにも、ここへ来てからの日々が楽しかったんだ。もしかしたらこの日、あの時間が来ても、何も起こらずにこのまま同じように日々を過ごせるのではないかと」

 いつもは完璧だと自負し続ける蛍が弱気になる理由を、豪樹は見いだせずにいた。楽しかったなら続ければいいじゃないか。はじめに会った時、レースの楽しさを知らなかった蛍に豪樹はそれを教えた。
 そんな悲痛な顔で走り出すなんて、それはレーサーにあってはならないことだ。

「でも、どうやら違うらしい。駄目なんだ。やっぱり」
「駄目なのか、よくわからないけど駄目なのか!? あの時間ってなんなんだ!?」
「蛍は警告する。もうすぐ破滅がやってくる。危険はすぐそこまで迫っている。」
「んんん? オレはどーすりゃいいんだ!? とにかく勝てばいいのか?」
「……そう、お前が私の手を取り戦ってくれるなら」

 豪樹にはわからないことだらけだった。けれど、わかることだってある。それはレースは勝つために挑むものだということだ。勝てば楽しい。負けると悔しい。
 蛍が勝たなければならないというのだったら、豪樹はすべてを投げ出してその手を取ろうと決めた。それがパートナーというものだからだ。

「わかったぞ! よくわからないけど、わかったぞ! 恥ずかしいけどオレ、オマエの手をとって頑張るから!」
「戦わなければいけないのに平和に過ごすお前を、危険に巻き込むことをあまり考えたくない。蛍は混乱している。」
「豪樹も混乱している! でも蛍、オマエ優しいなっ」
「……蛍は不器用だから。どうしてもこの時間まで上手く言葉が出なかった。」
「キニスンナ、蛍。誰だって言いにくい事はあるさ。で、オレはどーすりゃいいの?」
「――――私と、未来を救って」
「よくわかんねーけど、オレ、蛍のために全力全開でいくぜ!!!」

3-3 夕焼け色の魔法使い