機竜婚礼TRPGドラグブライド 試行世界3412記録 目次

 

機竜婚礼TRPGドラグブライド 試行世界3412記録 0-0

 

第一章 六月の邂逅

1-1 未来からきたヒーロー

1-2 問い、更問い、更々問い 

1-3 ファースト・レース

 

第二章 ただ一度の夏

2-1 ミッドサマー・フライティング

2-2 砂状の楼閣

2-3 特訓

 

第三章 終末の日のすごしかた

3-1 祭り囃子鳴り止まず

3-2 Run,Run,Run

3-3 夕焼け色の魔法使い

 

第四章 真夏の夜の運命

4-1 ドラグブライド、そしてドラグアロン

4-2 明日の明かり

 

最終章 夏の終わり

5-1 遺すもの

5-2 遺さざるもの

5-3 どこまでも、どこまでも

 


これはサークル「どらこにあん」様製作のTRPG「機竜婚礼TRPGドラグブライド」のリプレイ小説です。

物語る機会を作り出してくださったどらこにあん様、そして共にプレイしてくださったQさん、うさたーんさん、GMの巻布さんにこのリプレイを捧げます。

 

5-3 どこまでも、どこまでも

  翌朝、まだ日も昇りきらないうちに豪樹は頭を蹴り飛ばされて目が覚めた。

「起きろ、豪樹。ミニ四駆勝負するぞ」
「いててっ! 蛍じゃねーかよ。こんな夜に走るのかよ!?」
「そう。今じゃないと駄目なんだ。ほら、いつもの練習場だ。急げ」
「お、おう。わかったよいくよいくよ」

 駆け出していく蛍の後ろを号機はあくびをしながら追いかける。蛍がミニ四駆に本気になってくれるのは嬉しいことだ。気合を入れるために豪樹は自分の頬を叩いた。
 練習場で待っていた蛍は、手のひらの上にミニ四駆を載せていた。ガトリングもついていない、特殊な形状でもない。一般的なやつだ。

「実は、密かに機体を作っていた。インチキはしていない。ちゃんと手で作った。これで勝負。いいか?」

 豪樹の眼にはたしかにわかった。シャーシを削った跡、走り込ませたヘタリ具合。蛍がこのために調整を重ねていたことが。

「お、ちゃんとした車体作れるんじゃねーかよ!やったな蛍!」
「蛍は賢いからなんでもできる。エライだろう。」

 あんなものを見てしまえば、眠気も一瞬で吹き飛ばされる。やる気百倍だ。

「じゃあ勝負だ」
「手加減はしねーぞ。いっけーーー! ブレイブハァァァァァトーーーッ!」

 言葉通り手加減なしで豪樹は駆け出していく。序盤は豪樹の有利で角を曲がる。けれど、蛍の機体も確かに後ろについてきている音がする。モーターが回りタイヤが地を噛む音が。

「やはりおまえはすごいな!!お前のこと好きだったよ!!」

 蛍の声は弾んでいて、嬉しそうだ。豪樹も嬉しかった。レースを知らなかった少女が、ここまで育つなんて。

「オマエの本気を初めてみたぜ。これからもずっと一緒だぜ、蛍! あ、あれ?」

 逃げ切ってゴールを切った愛機を見送り、二着の蛍を褒め称えようと豪樹が頭を上げた時、すでにそこには機体だけが残されており。蛍の機体もまた、ゴールを切ってもその先の二週目にまで、走り抜けていく。

「ほーたーるーーーー!!!」

 レース場にはただ一人。叫ぶ豪樹と、並走する二台のミニ四駆が朝日を浴びて照らされていた。


Only One Summer's End.

5-2 遺さざるもの

 正晴は薄明の空をみあげていた。花火と……それと、どこか遠くで光がいくつかきらめくのをずっと屋上で眺めていた。
 もう、このままここで一晩を明かそうかと思った、そんな頃。戦闘を終えた静が、最後の言葉を伝えに戻ってきた。

「ただいま」
「おかえり。随分と遅かったじゃないか」
「ええ。でも安心して正晴。あなた達の世界はずっと続くわ。いつまでも。いつまでも」
「やりきったんだな、静。さすが、俺の幼馴染だよ……期待を裏切らない」

 静は笑った。もうなにも思い残すことはないというように。

「世界の危機が去ったんだから幸せを噛み締めて、なんて事は言わない。ただ、せいいっぱい生きて。それがワタシの願い。そして想い」
 きっと静はもう長くないのだろう。けれど、あえて答えを聞きたかった。正晴は問う。

「君はどうするんだ? これから」
「どうしようかな?」
「はぐらかさないでくれよ、お前は――」

 その瞬間、静の最後の思考が流れ込んでくる。
 これ以上、正晴の事を縛る事はできない。ワタシがいた記憶は彼の将来にないほうがいい。正晴の記憶から自分を消して、そして……

「さようなら」

 静の体は静かに夜空に透けていく。

 

5-3 どこまでも、どこまでも

5-1 遺すもの

最終章 夏の終わり

 朝、早い時間にひかりちゃんが私を起こしに来た。平和になったんだ。これでまた一緒に過ごせるんだ。結女はうれしくなって一通りはしゃいだ後、二人同じベッドで昨晩は眠った。

「おはよう、結女! もう、夏休みだからっていつまでも寝てないの!」
「安心したらぐっすり寝れた~~ひかりちゃんは早起きだねぇ……結女もうちょっと寝たい……」
「もう……こっちはヒヤヒヤだったってのに……ま、そこが結女のいいところだよね」
「ひかりちゃん、夜も言ったけど……おかえり!」結女は寝癖でぼさぼさの髪を直さずにへ~~と笑います
「ただいま、結女!」

 結女の髪は寝癖でぼさぼさだ。他方、光里も夜間飛行で乱れ放題である。光里は髪を二人分まとめてNDエレメント操作で整え、太陽のように明るく笑みを作ると、まだベッドから体を起こしたばかりの結女に抱きついた。

「やーひかりちゃんは魔法使いさんだねぇ、結女毎日髪整えるのお願いできちゃう」

 背中をポンポン優しくなでておこう。この子は頑張ってきたのだ。たくさん。抱きつかれたまま徐々に重くなる光里の体重を結女は嬉しく思った。

「えへへ、あたし、すっごく頑張ったんだからね! だからいまだけ、ちょっとだけ……」

 けれどそれは彼女が自分の体を支えられなくなったことの証左で。抱きしめたまま光里の身体は徐々に朝日に溶けるようにほどけて消えていき……頬を伝う、それはきっと嬉し涙が一粒落ちた跡には、あの日見た夕焼けのような色の、小さな髪留めが一つ。
 朝日を照り返してキラリと光ったそれは一瞬剣のようなきらめきを放ち、結女の腕の中にポトリと落ちた。

 

5-2 遺さざるもの

4-2 明日の明かり

 開戦直後、真っ先に動いたのは光里だった。

「結女の未来を! あたしたちのイマを! あんたたちなんかに、邪魔させてたまるもんか!!」

 機先を制すように飛び出し、ゲートの重力場をも利用して急加速する。意図を察した静と蛍がNDエレメントで力場を形成。それをさらに蹴りつけ、半弧を描くようにして、光里はドラグアロンの一機に向かって飛翔する。

 光里の右手が変化した大型剣が陽光を浴びたかのように輝く。

「切り開いて、夕陽の剣! 『陽射しのように斬りつけてサンライト・ブレード』!」

 危機を察したドラグアロンが回避を試みようとする間もなく、亜光速の剣はその翼を一刀のもとに断ち割った。
 返す刀でさらに三度の斬撃を光里は繰り出す。最初の一撃ほどの威力はないものの、それは機動力の大半を失ったドラグアロンにとっては十分な痛打となった。

「光里! どきなさい!」

 声の直後、光里はドラグアロンの身体を駆け上がるようにして背後に抜ける。この好機を逃す訳にはいかないと静がライフルのトリガーを引く。
 フルオートで発射された徹甲弾の嵐がドラグアロンを襲う。身を捩るようにして一部を避けるものの、静の目はその隙をも逃さない。吸い込まれるようにして頭部を弾丸が貫通し、断末魔を上げる間もなくドラグアロンの一騎が爆散した。

「やるじゃん静! 残りも――」
「ふたりとも。もう一体が動く。油断しないで」

 蛍が牽制射で押し留めていた残る一体のドラグアロンが、同胞の死に怒ったかのようにしてまとわりつくミサイルを振り払って動き出す。
 NDエレメントが爪部に収束。翼部が躍動する。三人のもとに巨躯の大質量が襲いかかる。
 三人は互い違いに逃げることによりなんとかその襲撃を回避するも、フォーメーションを乱されてしまう。ドラグアロンの重装甲を貫徹するには力を一点に収束させることが肝要なのだ。だが、ここでライフルのリロードをしながら静が叫んだ。

「正晴、あなたの想いは受け取ったわ。みんな行って、『祭り囃子に乗ってアサルト・マーチ』!」

 静は閃光弾を射出してドラグアロンの視界を一時的に封じると共に、二人のもとにNDエレメントで作り出した加速場を送った。蛍はそれに乗ることで静と合流しながら加速の乗った射撃をドラグアロンにぶつける。

「静、この力場借りるよっ!」

 そして光里は機竜形態へと変化し、ドラグアロンに組み付いた。機竜形態になったドラグブライドは出力、装甲ともに上昇する。足りない速度は静が補ってくれた。いまひとときであればドラグアロンと格闘戦を演じることも可能だ。
 ドラグアロンは咆哮をあげる。純粋な出力では勝る相手をねじ伏せられないことに焦れたのか、その背部からミサイルを幾条も発射する。狙いは遠間から射撃で決めるために集中していた蛍だ。
 蛍は武装の展開を解き回避に集中するが、追尾性能を持ったミサイルは執拗に追い続ける。静も射撃でミサイルの迎撃を狙うが、いかんせん数が多すぎた。

「逃げなさい、蛍!」

 静の悲痛な叫び。ミサイルが爆煙を上げる。風に流された煙が晴れると、しかし蛍は無事だった。光里がドラグアロンを蹴り飛ばし、蛍を庇ったのだ。

「光里。あなたはアイツを抑える役目じゃなかったの。蛍は完璧だから、大丈夫だった」
「にひひ。ごめんごめん、つい、ね」
「……でも、感謝する。ありがとう」

 厚い装甲があるとはいえ、光里の機体も大きく損傷していた。蛍はそれから目をそらさない。今度こそと覚悟を決めた目で全身の兵装を再展開する。
 危機を感じたのか、ドラグアロンから立ち上るNDエレメントの光が高まる。三人は突撃の前兆を見て取った。静は一人離れ釣りだすように射撃を繰り返すが、ドラグアロンはそれに目もくれず、蛍へと向かって加速する。
 だが、今度は蛍も回避をしない。蛍の戦局眼はこの攻撃の直後こそが一番の隙を生むと告げていた。そして今は受け止めてくれる仲間がいる。
 直撃、轟音。そして拮抗。光里の装甲は剥がれ落ちかけているが、ドラグアロン最大の攻撃を確かに受け止めていた。運動エネルギーを発散させたドラグブライドに、エネルギー充填を終えた蛍のキャノン砲が炸裂する。

「今! 走り抜けて! 『夜を駆けるナイト・ランナー』!」

 多大な熱量で溶け落ちたドラグアロンの装甲を的確に撃ち抜くように、蛍は戦術指揮を即座に飛ばす。光里も機人へと戻り、即座に三人による立体機動攻撃が行われる。
 リアルタイムで状況を更新し続ける蛍の眼があってこその技だった。三人が交差するように残弾を打ち尽くしたとき、ドラグアロンの胸部には夜空の見える大穴が開いていた。
 ドラグアロンが爆発四散すると、強い引力を放っていたゲートもまた、ゆっくりと閉じていく。
 ゲートの向こうの空は、白み始めていた。

 

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5-1 遺すもの

4-1 ドラグブライド、そしてドラグアロン

第四章 真夏の夜の運命

 

 花火が上がる。駿河市上空で待機していた光里はその光の花を間近で眺めていた。他の二人の姉妹は自分の契約者リンカーとうまくやれただろうか。きっとちぐはぐだったんだろうな、と想像して光里は一人で笑った。
 自分もそうだった。ちぐはぐで、でも愛しくて。別れは身体が二つに裂けてしまうほどに痛切で。
 二人がそんなふうにやることができたならいいな、と光里は思った。それならあたしたちは戦える。この街を守るために。この世界を守るために。
 大切な人を守るために。
 その時、地上から二つの影が上がってきた。二人に向かって光里は声をかけた。

「もー、ふたりとも遅いよ! あと数分もないよ!」
NDA-DB-3412-Iが早すぎるだけ。蛍は遅れたりしない、完璧だから」
「そうよ、まさかリンカーとうまくいかなかったんじゃないでしょうね。そんなので戦えるのかしら」
「そんなわけないじゃん! あたしは余韻を大事にしてたの――それと、あたしの名前は光里。NDA-DB-3412-S、あなたは?」
「静よ。憎まれ口を叩けるなら大丈夫みたいね、お互い」

 光里、静、蛍。三者はめいめいの顔を見ると、頷きあった。そろそろ時間だ。
 直後、紫とオレンジの光が明滅する。それは花火とも月明かりともまったく性質の違う光。開きかけたゲート、重力場の渦の光だ。三人はND粒子を操作し、地上からは観測できないよう、隔絶された空間を作り出した。
 ゲートは駿河市の空を覆うほどに巨大であり、その周囲にはドラグアロンの先遣個体の姿があった。数は二機。
 情報はない。2050年は三人を送り出すために手一杯であり、戦闘記録もない個体の情報収集をすることは難しかった。けれど、わかることがある。それはこの二機さえ倒してしまえば、残ったドラグブライドの力でゲートを閉じることは十分可能だという事実だ。
 機械竜が咆哮する。少女たちはめいめい武器を構えた。最初で最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

4-2 明日の明かり

3-3 夕焼け色の魔法使い


「ひかりちゃん~今日もお疲れ様ー!! ひかりちゃんのおかげで注文増えたから毎日忙しくて楽しい! 前田さんのお父さんなんていつも顔が怖いのに可愛い子が配達してくれてうれしーってニコニコしてくれてるし~」
「結女もおつかれさま! いやー今日もよく働いたねえー!」

 光里の漕ぐ自転車は全速力で車道を駆け抜けていく。結女もその速度感にはもうずいぶんと慣れた。自分で漕ぐときにもつい速度を出してしまうくらいには。
 それでも光里の生み出すこの速さには到底敵わなかった。細い腰に回した手につい力がこもる。

「明日も明後日も明々後日も! 仕事はどんどんあるよー!! 頑張ろうね!!」
「そうだね! 結女もだいぶ自転車漕ぐの早くなったし、この分ならもうひとりでやっていけるんじゃないかな!」
「……えー?! あはは、ひかりちゃんも一緒に決まってるじゃない! 何言ってるのよー」

 上り坂にさしかかり、光里は自転車を漕ぐ速度を幾分緩やかになる。光里もだいぶ気を使ってくれるようになったと結女は思う。以前だったらそのまま弾丸のように空へと射出されるのではないかと危惧するところだった。

「結女さ、最初に私がお願いしたこと、まだ覚えてるかな?」
「……覚え、てるけど……でも! それでも! その日が過ぎても結女はひかりちゃんと一緒にいたいもん」
「あたしもおんなじ気持ちだよ。でも、だから、やらなきゃいけないの。今日は8月25日。2030年8月の、運命の日」

 光里の声が震えているのを感じる。表情は見えない。泣いているのではないかと結女は思った。自転車の速度が落ちていく。

「結女、あたし結女といっぱいいろんなもの見たよ。いろんな所行って、配達もして、いっぱい、いっぱい……あたしだって結女と離れたくなんかないよ! でも行かなきゃ! 離れるよりも辛いことが、待ってるんだから……!」

 自転車は上り坂の中腹で完全に止まってしまった。この手を離せばすぐにでも消えてしまうんじゃないかと思って、光里の身体を結女は必死に抱きとめる。

「……結女、ひかりちゃんを守るから! 一緒に帰られるように、頑張るから……だから結女を置いて行かないで、結女また大切な人がいなくなるの嫌なの! 結女、ひかりちゃんが辛いことになるなら一緒に行く! 頑張らなきゃいけないなら一緒に頑張る! だから! 結女わがままだけど! 頑張るから……」

 これがわがままだとは結女自身もわかっていた。それでも言わずにはいられない。涙を堪えると手の力は抜けてしまって、結女は光里のジャージの裾をそっと握るだけになった。

「ありがとう、結女。あたし、結女のその気持ちだけで戦えるよ。ずっといっしょ、だもんね」
「……ひかりちゃん、絶対戻ってきて、約束して……」

 光里はしばらくされるがままにしていて、結女を一度も見ない。けれど次の瞬間、ほんの一瞬だけ結女は光里の強い力を感じた。抱きしめ返されたのだと気づく前に、光里はガバッと光里はガバッと身体を離す。
 光里は笑っている。坂上に登る太陽を逆光にして、結女を安心させるように。

「もちろん! 結女も見たでしょ? あたしは世界を救うヒーロー、そして魔法使いなのです! だから、心配しないで!」

 そして自転車のスタンドを立てると、光里は自分の竜翼を広げて坂道を滑るように飛んでいく。夕暮れの落ちる向こう側で、光里の姿は結女の視界から消えた。

「絶対に、勝ってくるから」

 

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4-1 ドラグブライド、そしてドラグアロン