5-1 遺すもの

最終章 夏の終わり

 朝、早い時間にひかりちゃんが私を起こしに来た。平和になったんだ。これでまた一緒に過ごせるんだ。結女はうれしくなって一通りはしゃいだ後、二人同じベッドで昨晩は眠った。

「おはよう、結女! もう、夏休みだからっていつまでも寝てないの!」
「安心したらぐっすり寝れた~~ひかりちゃんは早起きだねぇ……結女もうちょっと寝たい……」
「もう……こっちはヒヤヒヤだったってのに……ま、そこが結女のいいところだよね」
「ひかりちゃん、夜も言ったけど……おかえり!」結女は寝癖でぼさぼさの髪を直さずにへ~~と笑います
「ただいま、結女!」

 結女の髪は寝癖でぼさぼさだ。他方、光里も夜間飛行で乱れ放題である。光里は髪を二人分まとめてNDエレメント操作で整え、太陽のように明るく笑みを作ると、まだベッドから体を起こしたばかりの結女に抱きついた。

「やーひかりちゃんは魔法使いさんだねぇ、結女毎日髪整えるのお願いできちゃう」

 背中をポンポン優しくなでておこう。この子は頑張ってきたのだ。たくさん。抱きつかれたまま徐々に重くなる光里の体重を結女は嬉しく思った。

「えへへ、あたし、すっごく頑張ったんだからね! だからいまだけ、ちょっとだけ……」

 けれどそれは彼女が自分の体を支えられなくなったことの証左で。抱きしめたまま光里の身体は徐々に朝日に溶けるようにほどけて消えていき……頬を伝う、それはきっと嬉し涙が一粒落ちた跡には、あの日見た夕焼けのような色の、小さな髪留めが一つ。
 朝日を照り返してキラリと光ったそれは一瞬剣のようなきらめきを放ち、結女の腕の中にポトリと落ちた。

 

5-2 遺さざるもの